「まったく、勘だけはいいんだから。……懲りないのね」
シルヴェルさんが密猟者のアジトで見つけた、骨細工の警笛を使って、私はパワを誘き出す事に成功した。
彼女は騙されたことに腹を立てるでもなく、獲物を見つけた獣の様に、舌なめずりをしながら、私を見下ろしていた。
「しつこい男は嫌いか?」
取り巻きの密猟者をけん制しつつ、シルヴェルさんとレイさんが、あえて姿を現す。
「情熱的な男は……嫌いじゃないわ。子猫ちゃんたちも、いらっしゃい。まとめて可愛がってあげる」
余裕の表情と仕草で、私達を迎え入れるパワ。
「レイ、イーディス、まずはザコを片付けろ。パワは俺がやる!」
「任せといてっ!」
レイさんが、シルヴェルさんの声に答える。
そうして、パワ・ムジュークとの、たぶん最後になるであろう戦いの火蓋が、きって落とされたのだった。
「影縫い!」
取り巻きの一人を足止めしつつ、ヘビィショット、ストレートショットを撃ち込み、無力化する。
その間にも、レイさんが、ひとり、ふたりと密猟者を倒していく。
パワと対決しているシルヴェルさんは、彼女をけん制しつつも、じわじわと押されている様だった。
「これで……最後!」
最後の取り巻きを撃ち倒し、私とレイさんが、シルヴェルさんに加勢すると、流石のパワも、顔色が変わった。
形成有利な状況に持ち込めた。そう思った瞬間、パワがニヤリと笑うのが見えた。
「ふふっ、まだまだよ!」
そういう同時に、パワがパライズの魔法を繰り出してきた!
「くっ……麻痺魔法だと……? なぜ弓術士が、こんな魔法を!?」
「ふふっ、ギルドでぬくぬく暮らしてるあなた達とは鍛え方が違うのよ。」
あまりに予想外の攻撃に、私達は回避することもままならず、まともに魔法の効果を受けてしまった。
弓を取り落とす様なことだけは、なんとか堪えることが出来たものの、手足に走る痺れに、狙いがなかなか付けられない。
「……生意気ね……とっておきを見せてあげる」
弓を取り落とさず、尚も射かけてくる私達を見て、パワが苛立ちを隠すこともなく、声を上げる。
「レイ、イーディス、気をつけろ! パワが仕掛けてくるぞっ!」
シルヴェルさんの警告の声が、鋭く響く。
「フレイミングアロー!」
その声と同時に、パワが空に向けて矢を放つ。
そして、それが地面に突き刺さると同時に、その周囲で炎が吹き上がる!
「避けろ!」
シルヴェルさんの声と同時に、散開するレイさんと私。
必然的に、パワとの間が空くことで、彼女を取り囲んでいる体制が崩れてしまった。
「く…」
繰り返されるパワの攻撃に翻弄されながら、だいぶ効果は薄れてきたものの、まだ、指先にピリピリとした痺れが走る手を見る。
ちょっと分が悪いかも……そんな弱気が、頭をもたげかけて来さえもする。
私は、そんな弱気を振り払うように、再び、弓に矢を番えるべく、矢筒へと手を伸ばした。
「あっ!?」
その時、レイさんが、水場に足を取られてバランスを崩したのが見えた。
そして、そこを逃さず、パワが追い打ちをかけようとするのも見えた。
慌てて、それを阻止しようと矢を放とうとするも、指先の痺れに気を取られ、矢を番い損ねてしまった。
それを知ってか知らずか、パワの口元に、歪んだ笑みが浮かぶのが見える。
だめ! 間に合わない!
「……させん!!」
しかし、獲物を狩る瞬間の、その僅かな油断の隙を、シルヴェルさんが見逃さなかった。
その放った矢は、パワを捉え、その攻撃を妨害したのだった。
致命傷には至らなかったものの、深手を負ったパワは、今度こそ、形勢不利と判断したのか、身を翻して逃走を始めた。
「逃がすか!」
私達は、彼女を逃がすまいと、一斉に駆け出したのだった。
「いったいどこに…」
パワの姿を見失ってしまった私達は、手分けして彼女を探すことにした。
なにか痕跡でも残っていないかと、水辺を探っていたその時、なにか、上の方で物音がした。
次の瞬間、なにかが落ちて来て、盛大な水飛沫を上げるが見えた。
どうやら、木の上に潜んでいたパワが、シルヴェルさん達の一撃を受けて、転落してきた様だった。
「く……アタシが、こんな……」
這うように身を引きずりながら、パワが私を睨み付ける。
そして、悔しそうに呻いた後、気を失った。
「終わったね」
「……フン」
レイさんと、シルヴェルさんが、気を失ったパワの姿を見下ろしながら、呟いた。
「おかえりなさい。そして……ありがとう、イーディス」
弓術士ギルドに戻った私を、ルシアヌさんが出迎えてくれた。
ルシアヌさんは、私の弓術士としての目が、シルヴェルさん、レイさんを支え、それがパワ・ムジュークを捕らえることに繋がったのだと言ってくれた。
「私が教えることは、これが最後。あなたに、このギルドで修練を終えた証として弓術士ギルドに伝わる技を、教えましょう」
そういって、ルシアヌさんは、弓術士ギルドに伝わるという弓技、「ウィンドバイト」を伝授してくれた。
「弓術士として腕を磨く道は、まだまだ続くでしょう。それはあなたが戦い続ける限り、終わりはしない道」
「時には暗闇に迷うかもしれません。けれど、あなたなら必ず、道を見つけることができるわ」
そういって、笑みを浮かべるルシアヌさん。
「あなたの目を信じて。これからも頑張ってちょうだいね」
「はい!」
こうして、私は、弓術士として、やっとひよっこを脱することが出来たのだった。
まぁ、そんなこと言うと、シルヴェルさん辺りに、まだまだだって言われちゃいそうだけど(笑)